タイトル(かな) | てんすいのさくなひめ |
ハード | PS4,Switch,PC |
発売日 | 2020年11月22日 |
点数 | 77点 |
総評 | ・リアリティとゲーム性を上手くマッチさせた稲作 ・アクションも2Dながら爽快感◎ ・随所に粗こそあるものの全体的には良作 |
価格:4,656円 |
序文
2020年11月。「サクナヒメ」「稲作」というワードがSNSを中心にインターネット上でトレンドとなった。発売前に(稲作シミュレーションという新しいジャンルであることから)若干話題になってはいたものの、世間の目はほぼ同時に発売されるPlayStation5やそのローンチタイトルであるデモンズソウルリメイクに向いており、お世辞にも注目度が高いとは言えなかった。筆者もPS5をいかに入手するかに頭が向いており、「天穂のサクナヒメ?天穂って何て読めばいいんだ?」とまったく注目していなかった。
しかし実際にプレイした人からは絶賛の嵐。瞬く間にTwitterのゲーム関連のトレンドワードはサクナヒメに関連する言葉で埋め尽くされることとなった。PS5が手に入り辛かったことも相まって「繋ぎ」として購入したはずの本ゲームに思いもよらずドハマりするプレイヤーが後を絶たなかったのは、単に時期に恵まれたから、というだけでは決してない。
そこにあったのは単なる農作業ゲーではなく、稲作という難しいジャンルを上手にゲームに落とし込みつつも、その奥深さを丁寧かつ見事に描写した開発陣の稲作愛であった。本レビューでは、そんな天穂のサクナヒメの評価点や問題点を余すところなくレビューしていく。例によって、ネタバレ注意である。
なお、本ゲームを制作した「えーでるわいす」はいわゆる同人ゲームサークルであり、このゲームはインディーズゲームに分類される。開発人数は10人弱と小規模であるとのこと。しかし本ゲームのレビューにおいては、インディーズゲームであることを考慮に入れず、あくまでフラットな目線でいちゲームとしての評価を下す。すなわち、「同人ゲームにしてはグラフィックが良い」とか、「このレベルのゲームを10人弱で作るなんてすごい」といった、「インディーズであることを理由に加点or減点する」といった評価方法は一切しないことを最初に述べておく。
評価点
本ゲームは米を作る稲作パートと、稲作や装備新調に必要なアイテム収集などを行う探索・戦闘パートの2つのパートに分かれている。
丁寧かつリアリティのある稲作パート
稲作パートでは米を作る。
とはいえ、苗を植えて、水をあげて、ハイおしまい…かというと、当然そんなことはない。世の中は、米作りは、そんなに甘くはないのだ。
土を耕すし、肥料も撒く。種籾を選別するし、田植えの間隔や水加減も重要だ。
気温や天候に応じて水加減を変えたり、雑草を抜いたり…と、米作りはこんなに手間がかかるのかということをプレイヤーは身をもって知ることとなる。
もちろん農作業ばかりに集中できるわけではなく、その日食べるものを採取する必要もある。食事をしなくても死ぬことはないが、食事により増加するバフ効果は絶大であるから、後述する探索&戦闘パートを効率よく進めるためにも食事は必須といってよい。しかし、収集した食材は数日で容赦なく腐ってしまい、このようなところでも現実世界と同様のシビアさを感じさせる。
農作業の工程一つ一つもまた、必要以上にゲーム性を追加させることなくリアリティを重視しているため、米作りパートは、基本的にとても地道な作業である。しかし、つまらないかというと決してそんなことはない。主人公(サクナ)の能力が低い序盤はあまりの作業の地味さ、効率の悪さに乾いた笑いが出たが、農作業スキルを覚えるにつれ劇的に効率が上昇。序盤の作業の辛さは後の効率アップを前提としたものであり、自分が開発陣の掌で踊らされていたことがわかる。
少し深読みすれば、序盤の効率の悪さこそが本来の米作りであり、高効率化した後半は、見た目こそ豊穣神であるサクナの能力で作業をこなしてはいるものの、その実、現代の機械化された農業を表現していることがわかる。そう、本ゲームは米作りの入門教材ともいえるのだ。
リアリティを追求したゲームが、ゲームとしての面白さを損なってしまう失敗を筆者は数多く見てきた。ゲームに合わないスタミナ制や装備の耐久制の実装が単なるストレス要素にしかならない、というのはままあることである。ゲームはリアルであれば良いというわけではないのだ。しかし本ゲームのリアリティ要素は「米作りを楽しんでほしい」という制作陣の想いが伝わってくるものであり、ゲームの面白さを増幅するものである。最悪、適当に米作りをしてもゲームが詰むほどではない。
探索パートは2Dとは思えないアクション性の高さ
稲作パートが3Dで360度好きな方向に移動できるのに対し、探索&戦闘パートは横スクロールのアクションである。ダンジョン内を横に進み、出現する敵を倒しながら、素材を収集していく。
正直筆者は、プレイ前は「えぇ…今どき2D横スクロールか…」と警戒をしていた。横スクロールアクションというのは3D技術がなかった時代の表現手法として生み出されたものであり、現代においては型落ちのシステムであると思っていたからだ。しかしこれは大きな間違いであった。
サクナは伸縮自在の羽衣を所持しており、羽衣を壁や天井にくっつけて移動したり、敵にくっつけて裏にまわったり、逆に敵を引き寄せて攻撃したりすることもできる。飛んでいる敵に羽衣をくっつけることで、足場替わりにすることも可能だ。この羽衣が単調となりがちな2Dのアクション性に色をもたせているのだ。横スクロールという制限をもちつつも、羽衣と武技を駆使することで縦横無尽にフィールドをかけまわり、やりたい動きは大体できるのが驚きだ。
爽快感のある戦闘パート。「衝突」と「弾き」は欠かせない要素
戦闘パートにおいては様々な「鬼」が敵として出現する。鬼は基本的に現実に出現する動物を模しており(豚、猪、兎、魚など)、倒すと戦利品として肉や毛皮などを落とす。
そして、戦闘パートを語る上では、「衝突」という攻撃方法を欠かすことができない。本ゲームでは敵を吹っ飛ばし別の敵にぶつけることで、普通に殴るよりも安全かつ大きなダメージを敵に与えることができる。武技や羽衣で敵を吹っ飛ばして別の敵に当てる。当たって吹っ飛ばされた敵は、また別の敵を巻き込みダメージを与え…と、昨今のスマホ広告に現れるパズルゲームのような勢いで敵が敵を巻き込みどんどんぶっ飛んでいく光景は爽快感がものすごい。このような巻き込みは、3Dゲームでは再現し辛い。タテ、ヨコの他に「奥ゆき」という概念があると、その分敵を巻きこむことは難しくなるし、爽快感も薄れるであろう。この衝突による攻撃方法は2D版の無双ゲームといってもよい、画期的なものだ。
また防御面では「弾き」というシステムがある。敵の攻撃に合わせ前または後ろにチョン、とスティックを倒すことで、敵の攻撃を弾くことができる。攻撃を弾くと、一定時間敵は無防備になるため連続攻撃を叩きこむことができる。弾きシステム自体は特に真新しいものではないが、敵の攻撃が意外と強烈なこと、弾きのタイミングが見極めやすいこともあり、活用するかしないかで戦闘の難易度および醍醐味が大きく変わる。ボス戦において弾きを駆使し敵を完封したときの爽快感はえもいわれぬものがある。
個性豊かなキャラクター
登場人物は決して多くはないのだが、非常に個性豊か。最初こそプレイヤーから見た登場人物は愛着が湧きにくい(特にきんた、ゆいや主人公であるサクナ自身)のだが、ストーリー進行に応じて彼ら一人一人の成長を描ききる構成は見事。プレイヤーの登場人物評も、ストーリー序盤と終盤では大きく異なるはずだ。
ロードが早い
本作は素材収集などを目的としたエリアジャンプの機会が非常に多いのだが、ロード時間が非常に短いためストレスを感じにくい。細かい点ではあるが非常に重要である。
世界観にマッチした素晴らしいBGM
実は筆者がこのゲームをプレイして最初に思った感想は、米作りの面白さでも戦闘の爽快さでもない。「うわ、このゲーム曲すごくいい」だ。ぜひ実際に聞いてみてほしい。
問題点
シビアな時間との戦い
農作業ゲーと聞くと何となく「どうぶつの森」のようなスローライフを想像するかもしれないが、本ゲームは全くそんなことはない。常に効率を意識したプレイが求められるのだ。サクナは24時間活動可能であるが、夜間は視界が悪く、また鬼が非常に強化されるため、探索は昼間に行うこととなる。
では昼間に探索をし、夜に稲作するか?と問われると、稲作もまた日中にすべき作業が多い。したがって、農作業の多くも日中に行うこととなる。
以上から、昼間に活動をし、日が暮れたら我が家に戻り、家族みんなで夕餉を楽しみ就寝。翌朝また活動開始…という一見健全な生活を送るのが序盤~中盤の流れである。これは特に違和感はない。
しかしこの日中の時間が非常に短いためいくつかの遊び辛さを感じさせる。よくあるケースのひとつに、朝起きていくつかの農作業(肥料まいて草抜きしたり)の後、仲間に話しかけたりすると既に昼くらいになっており、その後ダンジョンへ行くも探索の道中で夜になってしまい、中断ポイントもないため泣く泣く帰還。翌日またスタートからやり直し、というものがある。日中の時間が短すぎて、起きてすぐダンジョンに行かねば満足に探索できない。昼くらいからの活動ではまとまった時間がとれず、成果も中途半端になりがちでヤキモキさせられる。
また同様に、食事の効果時間問題もある。食事はHPの自動回復効果をもつため、回復手段の乏しい序盤~中盤においては食事の持続時間=探索可能時間といっても差し支えないのだが、稲作中に食事の効果時間を消費してしまうと肝心の探索パートで食事が切れてしまうこともある。
ということで、朝~日が暮れるまでのコアタイムにどれだけの作業を効率よくこなせるかが非常に重要であり、「まったり」「スローライフ」とは対極の行動を強いることとなる。効率プレイ自体は嫌いではないのだが、常に「日没まで」「食事の効果時間」という制限時間がある中プレイを強いられているような感覚に陥る。たとえば夜になってもすぐ敵が強くなるわけではなく、時間経過に応じて少しずつ強くなる(急げば踏破できる)とかの、かけた時間が無駄にならないorなりにくい要素が欲しかったように思う。
早すぎる四季の移り変わり
このゲーム、稲作を何年にもわたり試行錯誤するゲーム設計のため仕方ないのだが、四季の移り変わりが非常に早い。
春(3日)→夏(3日)→秋(3日)→冬(3日) の繰り返しで1年が過ぎていく。
季節ごとに稲作に有利な行動があるため、ああ田植えしなきゃ!水抜かなきゃ!あっもう秋だ収穫しなきゃ…と1年が物凄いスピードで過ぎ去っていく。文字通り息つく暇もなく、上述の1日の時間の短さも相まって、常に何かに追われ、急かされているような感覚に陥る。これが稲作のリアルなのか?現実の方がもうちょっと休憩時間があるような気すらする。
移動速度はもうちょっと欲しかった
サクナの移動速度が、稲作パート、探索パートどちらにおいてももうちょっと早くしてもよかったのではと思う。ダッシュを作るとか。第一、田んぼの中では走れるのに田んぼ以外だと走れない。豊穣神は田の中でしか本気を出せないのだ。
ミルテがうるさい
声優さんやキャラに罪はないのだが、夕食の度に聞かされる「ナニッカー ツクルデスカー?」「ナニッカー タベルマスカ?」の2セリフがとても甲高く、上述した1日の短さも相まってこのセリフばかり聞かされているような気がして非常につらい。正直サクナ以外の登場人物のセリフはこれしか覚えていないレベルで強く印象に残っている。聞く頻度が多く、繰り返し聞かされるセリフはもう少し耳なじみの良い音にすべきだ。ミルテは外国人キャラで片言の日本語を話す設定であるとはいえ、全体的にセリフ回しに無理がある。
昼食があってもよかった
中盤~終盤にレア素材を求め夜探索が中心となってくると、夜探索で食事効果を発揮するために、夕餉の後そのまま活動することが多くなるのだが、そうすると夜が明けることにはすっかり空腹になっている。食事効果を維持するために食事をとろうとすると、また強制的に夜になってしまうため、見事に昼夜逆転の生活を送ることになってしまう(通称、終わらない夜現象)。したがって、朝食または夕食の時間があってもよかったように思う。制限をかけるのは稲作部分にすべきであって、行動それ自体の阻害要因は無いに越したことがないのだ。
探索&戦闘パートの問題点
探索&戦闘パートにもいくつかの改善してほしい点があった。
敵ダウン時の無敵時間
敵をダウンさせた後、起き上がるまでの間に非常に長い無敵時間があり、追撃ができない。したがって、衝突を狙えない状況では、敵をダウンさせるとかえってダメージ効率が悪く、最悪の場合手痛い反撃を受けるケースも。本来であれば敵を転ばせたときこそ一気にダメージを与えるチャンスであるわけで、なぜこれができない仕様にしたのか不思議である。爽快感のある戦闘だけに、ここは非常に残念。
全体的に大味な印象は否めない
雑魚敵との戦闘は羽衣技または武技で敵をふっとばしてぶつければ足りる。
ボス戦は、1:1の状況に持ち込んで棒立ち→攻撃が来たら弾いて殴れば足りる。
どのボスもおおむね同じ攻略法で倒せてしまう感はあるため、もう少しバリエーションは豊かでも良いかもしれない。
羽衣アクションの操作性は良いとはいえない
羽衣を任意の壁や崖にくっつけたいと思っても、基本的に上下左右+斜めの8方向にしか伸ばせないため、狙った場所に羽衣を当てることがそれなりに難しくストレスを感じた。徐々に操作に慣れてきたが、それでも100%思ったところに当てられるわけではない。羽衣の操作性は要改善であるように思う。
ストーリーについて
ストーリー全般は王道もの、笑いあり涙ありで良い出来であると思う。
しかし消化不良、という言葉では片づけられないほど未回収の伏線の存在が強く心に引っかかる。
細かな不満
・獣の糞が手に入りにくい
・我が家へ帰った時のスタート地点をもっと田んぼ寄りにしてほしかった。家の前とか。
・蔵の中の素材の賞味期限はいつでもどこでも見られるようにすべきだった。特に肥溜めでの肥料作成中に見られないのは痛い。
総評
発売前の注目度を更に一回りも二回りも上回るゲーム性の高さ、こだわり、作りこみにより爆発的ヒットとなったこのゲーム。クリアまでのプレイ時間は30時間程度と昨今のRPGとしてはやや物足りなくもあるが、クリア後のやりこみ要素も含めれば十分に元がとれる。プレイできるハードも多く、自信をもっておすすめできる一本である。未回収のストーリーの伏線を批判要素として挙げはしたものの、ここは続編への布石としてプラス思考で考えたい。米作りをテーマとしたアイデア、とゲームとしての面白さもさることながら、主食であるコメの育成過程をあまりにも知らなすぎる我々日本人へ、米作りを学ぶ入門教材としての役割をも果たす素晴らしいゲームだ。ぜひプレイしてみてほしい。それだけの価値があるゲームだ。
価格:4,656円 |