タイトル(かな) | じゅうさんきへいぼうえいけん |
ハード | switch,PS4 |
発売日 | 2019年11月28日 |
点数 | 74点(良作) |
総評 | ・壮大かつ緻密なシナリオ構成は見事 ・理解が難しく、ついていけるかがカギ ・「見せ方」を工夫しすぎた可能性あり |
序文
十三機兵防衛圏。2019年に発売されて以来、インターネット上を中心に「かなり面白い」「傑作」という声をよく聞くゲームだ。本作は前々から筆者にとって「いつかプレイしたいゲーム」の筆頭であった。2022年4月にswitch版が発売されることに伴い、その「いつか」がついにきた格好だ。ちなみにずっと「ぼうえいだん」だと思っていたのだが、購入後に「ぼうえいけん」であることを知った。
アドベンチャーゲームやノベルゲーム、シミュレーション戦闘ゲームが大好きな筆者にとって、それらが組み合わさった本作は非常に好きなジャンルのゲームといえる。
なお、switch版が発売されたばかりであるが、本レビューでのプレイ環境はPS4版である。処理能力の観点から、PS4版でプレイした方が快適なゲーム体験が出来る可能性が高いと考えたためだ。
本レビューで、筆者の感想をしっかりと伝えていきたい。
なお、ネタバレ箇所にはアコーディオンを付けているが、閲覧の際は十分注意されたし。
シナリオパート(追想編)について
本作のゲームプレイは大まかに「追想編」と「崩壊編」に分かれている。そのうち追想編は、ADV形式で13人の主人公のシナリオをひたすら読み進めていくものだ。
緻密に練られたストーリー
ゲームの開始時にプレイヤーが放り込まれるのは、物語の時系列的にかなり終盤に位置する箇所である。プレイヤーは追想編のプレイを通じて、過去の断片を辿って少しずつ物語の全容を掴んでいくことになる。
追想編により与えられる情報は非常に断片的で、プレイヤーは各主人公の物語を読み進めることで、多角的に少しずつ本作の世界観・物語を理解することになる。プレイしている感覚としては脳内でパズルをしているのに近く、物語というパズルのピースを集めながら脳内で組み立てていき、最終的に「あっ、そういう物語だったんだね」というカタルシスを得ることが本作における大まかなゲーム体験だ。
ある主人公のシナリオでは理解不能に見える登場人物の行動も、別の主人公のシナリオをプレイすることですっかり腑に落ちたりするし、13人の主人公のみならず様々な登場人物の思惑が複雑に絡みあった緻密なストーリーを、破綻なくまとめあげている設計は見事というほかない。
伏線モリモリ、謎モリモリなお話が大好きなプレイヤーにとっては傑作となりうるゲームだろう。
魅力的な登場人物たち
また、登場人物が魅力的で、不快感が少ないのもいい。
美しいグラフィックで描かれる13人の主人公たちは時代やバックグラウンド、置かれた状況も様々であるが、皆真摯で好感が持てる人物ばかり。「やらかし」タイプの主人公も存在するが、思想や行動が一貫しているためか、不思議と読んでいてストレスを感じることは少ない。
従って、どの主人公のシナリオも楽しむことができるため、特定のシナリオを進めるのが辛いということは一切なかった。
また、こういったゲームにありがちな失敗として、世界観ややりたい展開を優先するあまり登場人物が不自然な行動をとるという「無理やり動かされてる感」が出てしまうことがあるが、本作はそういったことが少ないのも良い。「ああ、このキャラならこう動くよね」がきちんと共感・納得感を得られる形で描写されている点がポイント高く、それらも含めてとにかくストーリー設計が緻密で見事なのだ。
快適なシステム面と、直感的に動かせるUI
さらにシステム面も快適で、初見イベントでも早送りできたりするので、キャラが歩いているだけのシーンはちょっと早送りしてみたりとか、「ちょっとした部分」の快適さがキッチリと作りこまれておりストレスフリーな点は高評価だ。バックログも当然完備しており、バックログは追想編だけでなく「崩壊編」の戦闘情報に関するメッセージも閲覧できるため非常に親切。
と、本作は本当によく作りこまれた、すごいゲームなのである。
でも…。
シナリオの「見せ方」について
しかしながら、全体感としては、期待していたスッキリ感・伏線回収によるゾクゾク感といった快感を得ることは叶わなかったというのが本音であった。
世間で絶賛されている本作のシナリオは、前述の通り見事な作りである。
ただ実際にゲームをプレイして感じたのは、とにかく物語が複雑で、かつ与えられる情報が時系列もバラバラで断片的すぎるため、疑問が1つ解消すると同時に2つ増えるというような印象が強く、今が伏線や謎が回収されているフェーズなのか、それとも新たな謎が提示されているフェーズなのかの判別が難しく、いつまで経ってもスッキリさせられる段階にたどり着けない。全体の97%くらいの時間はモヤモヤを感じてしまい、流石に長すぎた。
もちろん、この複雑さをまとめ上げ、さらにそれを断片的に見せるというゲーム設計こそが本作の重要なヒット要因であることは理解しているし、筆者のような意見はマイノリティであろう。筆者自身も、「よう作ったシナリオだなあ」とは思う。でも、
「真実はこうだと思ったら実は違いました」
「残念それも違いました」
「記憶を失っていました」
「真実を話したつもりだけど、裏で想定外の事態が起きていたので事実と異なってました」
などのひっくり返しやミスリードが多いので、伏線回収や謎が解けたかどうかを信じることができず、回収され尽くした段階でも「すごい展開だ、鳥肌立つ」というスッキリ感はなくて、「あ、ここで全部出尽くしたのね…出尽くしたんだよね?」という疑念が強く残り、期待しているような快感を得ることができなかったというのが本音だ。
また、物語の理解に資するための情報として、物語中の用語や登場人物などの「謎」をまとめてくれるミステリーファイルや、プレイしたシーンを人物別・時系列別に表示してくれるアーカイブも存在するが、読みづらかったり、ソートできなかったり、微妙に欲しい情報がなかったりなど絶妙に分かりづらい。
また、これだけ複雑であるにも関わらず、物語の根幹にかかわる部分は結局登場人物の独白や説明で済まされてしまうという点も、見せ方として問題があると感じた。
総じて追想編は、シナリオの練りこみとキャラクターの魅力は見事という他ないが、見せ方が良くないというのが筆者の感想だ。すごい作品なんだけど、感情が動かされにくい。完全にピースをはめ尽くすまで全体像がまったく見えないパズルの組み立てを続けるというのが筆者にとっては厳しく、もっと要所要所で盛り上げたり、徐々に謎が解けていくという感覚を実感することができれば違ったのかなと。そういう印象を受けた。
バトルパート(崩壊編)について
もうひとつのゲームモード「崩壊編」では、13人の主人公たちが搭乗する機兵を操作して拠点を守るという、いわゆるタワーディフェンス・ジャンルの戦闘パートだ。この戦闘パート、そこそこ面白いのだがあまり奥行きがなく、追想編のボリュームと比較してしまえばオマケ的な扱いとなってしまっているのがやや残念だ。
筆者はSTRONGモード(ゲーム側で「オススメ」している難易度でもあり、3段階中最高難度でもある)でプレイしたのだが、どのWAVEも基本的に似たような戦術でクリアできてしまうこと、ユニット格差が大きくバランスがあまり良いとはいえないことなどが気になった。ストーリーにおけるラストバトルはなかなかに歯ごたえと緊張感があり、楽しむことができたが。
あと、これは超個人的な好みの話なのだが、戦闘を開始する「入り」の部分にアツさが足りない点がやや物足りないなと感じた。
というのも、ストーリー上の時系列は追想編→崩壊編であるにもかかわらず、実際の崩壊編プレイのタイミングは追想編のストーリー理解が未了な状態で少しずつ挟まれるため、どの戦闘もフリーバトル感が拭えないのだ。
筆者はSRPG系のゲームで、シナリオパートの演出でめっちゃ盛り上がってからの、アツいBGM・アツい戦闘開始ドーン!というのにすごくアガるタイプの人間なので、追想編を進めるためのタスク感がある崩壊編はいささか舞台装置としての役割に欠けているなという印象を受けた。戦闘BGMもあまり印象に残らなかったし…。
これだけシナリオに力を入れているゲームなので、崩壊編の戦闘でもっとアツさや感情の揺さぶりを仕掛けてほしかったという気持ちがある。
ただ、戦闘における快適さやUIについては大きく評価している。マップ上に多数のオブジェクトやミサイル等が飛び交っているにも関わらず処理落ちは全然なかったし、必要な情報がしっかりと見やすい位置に配置されている、コマンドが選択しやすい、など地味ながら重要な箇所はしっかり押さえており、快適に遊ぶことができた。
敵の特徴がミステリーファイルに戻らないと見られない点や、狙ったユニットにカーソルが合わせづらい点などいくつかのマイナスポイントはあったが。
総評
シナリオの練りこみ、作りこみは見事の一言。キャラクターもすごく良くて、13人もいる主人公全員を好きになれるというゲーム体験はかなり貴重。
ただ、見せ方はもう少しいい方法があったと感じる。本作のこだわりを真っ向から否定するようで恐縮だが、ここまで複雑な物語の表現手法として「断片×多数主人公」をチョイスすることに、果たしてゲームとしての面白さをブーストさせる役割はあったのかという点は疑問に思ってしまう。複雑で緻密な物語だからこそ、その表現手法はシンプルなものである方が望ましいというのが筆者の主張だ。
フラットな目で見れば良作であるのは間違いないだろう。ただ注意したいのは、思った以上に人を選ぶタイプのゲームであるということだ。ネット上で評価をさらっと検索すれば絶賛レビューが目立つため、一見すると万人受けする傑作という印象を抱きそうになるが、実際のところは合う合わないが明確に分かれるゲームだろう。
評判と実際のプレイに隔たりがあみって疑問に思って検索したら
まさに自分が思っているのと全く同じ感想で共感しました。ありがとうございます
こちらこそ、読んでいただきありがとうございました!