タイトル(かな) | えんだーりりぃずくわいたすおぶざないつ |
ハード | PS4,Xbox One,Switch,Xbox Series X,Xbox Series S,PC |
発売日 | 2021年01月21日 |
点数 | 85点 |
総評 | ・絶妙な高難易度、多彩な動きが可能な2Dゲーム ・荒廃しつつもどこか美しい世界 ・プレイヤーのストレスを排除した親切設計 |
序文
Ender Liliesは、Steamによるアーリーアクセス版が2021年1月にリリースされ、その後、完成版が6月にSwitchとSteam、追って7月にPS4,PS5でリリースされた高難易度の2Dゲームである。その難易度の高さや荒廃的な世界観から2D版「ソウルシリーズ」などとも呼ばれ、また、価格が3,000円程度と求めやすいこともあり、リリース初期から非常に高い評判を得た。筆者も遅ればせながら先日クリアをし、本レビューを書いている。結論から言えば、このゲーム、非常に面白い。本レビューでその魅力を存分に伝えていければと思う。
本レビューでは、筆者がどのように「Ender Lilies」を感じ、評価したか、その詳細を語っていく。もちろん、ネタバレ注意である。
なお、特に強調したい点には、★マークを見出しに付している。
評価点
★荒廃した物悲しい、されど美しい世界観
本作は、主人公である少女リリィが「黒衣の騎士」により目覚めさせられるところから始まる。リリィが目覚めたとき周囲は荒れ果てており、自分以外の生物はおらず、「穢者(けもの)」と呼ばれる異形の者が徘徊する世界となっていた。リリィは黒衣の騎士と共に、世界に何が起きているのか、自分は何者なのかを知るために歩みを進めていく。
本作の表現する世界は、自分(と黒衣の騎士)以外に誰もマトモな者がいない、孤独で寂しく、一見希望のないものである。しかし、暗さの中にも透明感のあるグラフィックやBGM、キャラクターの挙動はどこか美しさを感じさせ、プレイヤーの心を揺さぶる。膨大な数のエリアのひとつひとつが作りこまれており、リリィ(プレイヤー)の行く末はどこなのか、単なる横スクロールアクションではない、「先が気になる」世界観の演出が見事だ。
★難しいのにストレスがない。極めて快適なゲーム設計
本作を名作たらしめているのがこの点である。2D版「ソウルシリーズ」などと巷で言われる(筆者はあまり好きな言い回しではないが)ように、本作は難易度が高めなゲームである。「死にゲー」と言うほどではないが、敵の火力が高く、多対1の状況ではあっという間にやられてしまう緊張感があるし、ボスについても初見での撃破は難しいものが多い。(とはいえ、ソウルシリーズのボスほど詰まることはなく、「チョイ難」くらいの印象であった。筆者は1ボスにつき3~4度目の挑戦で勝つことが多かった。)
どんなゲームであっても、行き過ぎた難易度はストレスの種になるものだ。しかしながら、本作はプレイヤーにストレスを与えないための様々な工夫が細部になされており、高難易度と快適さが見事なまでに両立している。以下、個別にみていこう。
操作感◎。めちゃくちゃ快適
本作、キャラクターの動きが非常に快適でストレスが皆無である。基本アクションは「スキル使用(攻撃)」「回避」「ジャンプ」といった2Dアクションあるあるなラインナップであるが、シンプルに操作感がすごく良いのだ。プレイヤーの操作とキャラの挙動の間に目立った遅延や妙な慣性もなく、「〇〇をしたつもりが別のアクションが出てしまった」などといったこともない。2Dアクションゲームにおいて、シンプルながら非常に重要な要素を抑えている点は◎。
死にやすいが、再挑戦が容易
前述の通り、本作は雑魚戦であっても気を抜けばすぐやられてしまうし、ボス戦は雑魚以上の超火力&パターンの覚えゲーなところがあるので、特にボス戦においては数度の死亡は前提として作られている。しかし、死亡によるペナルティ(デスペナ)はなく、最後に休憩したレストポイントに戻されるだけであるため、安心して死亡&再挑戦することができる。たとえば、比較対象である「ダークソウル」などのソウルシリーズは、死亡することで「ソウル」という経験値兼お金を落としてしまう危険があるが、本作にはそのようなものはない。また、ボスエリアの手前には必ずレストポイントがあるため、死亡した後すぐボス部屋へ行くことができ、戦闘前のイベントもスキップすることができるので、死亡から再挑戦までのテンポが非常に良い。これにより、プレイヤーは倒せないボスに遭遇したとき、セットするスキルやレリック(装備)をじっくりと考え、試行錯誤しながら気軽に再挑戦するという楽しみを存分に堪能することができる。「死にやすくても、敗北がストレスにならない」という作りにより、何度負けても「よし、やるぞ」という気にさせてくれる。
ファストトラベルの早期解放
既に上で述べたが、「レストポイント」と呼ばれる休憩スポットが各地に点在しており、このレストポイント間を一瞬で移動(ファストトラベル)することができるのだが、このファストトラベルがゲーム序盤ですぐ開放されるため、膨大な数のエリア間の移動が一瞬で終わる。この移動のストレスのなさが、探索意欲を掻き立てる。
便利なマップ機能
マップは半透明で、探索済みのエリアと未探索のエリアで色分けがなされている。かつ、地味に便利なのが、マップを開きながら移動できることである。かなりのエリア数かつ複雑なマップ構成をしているゲームのため、この機能がなかった場合かなりのストレスであっただろう。
…と、このように、本作は「かゆいところ」に手を届かせまくっているのが最大の特徴で、「あったら便利だな」機能が全部盛りされているので、プレイにあたってのストレスが極限まで排除されている。そのため、全体的な難易度が高めであっても嫌になることなくプレイでき、美しい世界に没入できることが最大の良ポイントだというのが筆者の感想だ。う~ん、すばらしい。
進むにつれて増えていくアクション要素と、探索の楽しみ
ストーリーを進め、ボスを倒していくと、ボス固有のアクションを使用することができる。アクションの内容は様々で、2段ジャンプや壁登りのほか、道を塞ぐ肉の壁(肉腫)を壊してその先に行けるようになったり、暗器をひっかけ忍者の鉤縄のように移動したりなどがある。そのため、序盤で訪れたエリアでとれなかったアイテムが、これらのアクション習得後に改めて訪れると入手できるようになったりするため、そのような探索要素・宝探し要素も本ゲームの魅力のひとつだ。膨大なエリアのすべてのマップを、「探索済み」にしたときの達成感はえも言われぬものがある。マップ埋めの作業が好きなプレイヤーはハマるはずだ。
また、これらアクションは戦闘にも役立つものばかり。進むにつれてリリィのできる動きがどんどん多彩になっていくため、アクションゲームとしての楽しみも終盤ほど高まっていくし、アクションが苦手な初心者にとっても、「最初はできることが少なく、慣れと共に徐々にできることが増えていく」というシステム側が伴走してくれる側面もある。
豊富かつ、非常に性能バランスのよいスキルとアイテム(レリック)
ゲームを進めていくにつれ、「スキル」と呼ばれる攻撃技や、「レリック」と呼ばれる装備品を入手することでリリィの能力が拡張していく。「スキル」「レリック」共にかなりの種類があるが、どのスキル・レリックも非常によく作られており、いわゆる「死にスキル」というものはほとんど存在しない。もちろん、攻略をする上で強力な、重宝するスキル等はある。しかし、この手のゲームにありがちな、「種類だけ増やして実際は使い道がないものばかり」などといったことは一切なく、どのスキル・レリックも使いどころによっては有効で、自分の好みに合わせセッティングすることができる。プレイヤーによっては同じエリアでもスキルやレリック構成が全く異なる点がとても面白い。
世界観と、キャラの心情を表現する良質なBGM
BGMについても言及したい。上で述べたように、本作の世界観を表現するに欠かせないのがBGMの存在だ。序盤は荒廃した世界を表現する物悲しく、それでいて美しい音楽。終盤は不気味で生理的な嫌悪感を覚える音楽が、ゲームの雰囲気を大いに盛り上げてくれる。BGMが本作の魅力をかなり底上げしている点は疑いない。これはぜひ、実際に聞いていただきたいと思う。
物語の設定を断片的にプレイヤーに伝えるTIPSとフレーバーテキスト
本作は、ストーリーや世界観のすべてが順序立てて親切に説明されるわけではない。プレイヤーは、ボスを撃破した際のショートムービーや、TIPSと呼ばれるファイル、レリック・スキルなどのフレーバーテキストなどから断片的な情報を得、それらを組み合わせることで本作のストーリーを把握することができる。この点はソウルシリーズの雰囲気に近い。(もっとも、ソウルシリーズと比較すれば、かなりわかりやすくはなっている。)これらの「語りすぎない」演出もまた、ゲーム全体の雰囲気の向上に一役買っている。
問題点
Ender Liliesは、非常に良くできたゲームである。「評価点」で述べたように、極限までかゆいところに手が届く作りをしているため、問題点というほど気になる点は感じなかった。しかし、いくつかのごく細かな点につき気になることがあったため、そこについて触れようと思う。
発見が非常に困難ないくつかの隠し通路
本作における楽しみのひとつに、エリアを漏れなく探索/アイテムを収集し、マップ埋めをしていくという作業がある。しかし、いくつかのエリアには「いやこれ見つけるの無理でしょ…」という隠し通路があり、自力ですべてを発見することは極めて困難である。
- 特に、プレイヤーからは全く見えない場所に、完全ノーヒントで肉腫があったりすることがあるので、攻略サイトが半ば必須な作りとなっている。これらを発見しようと思ったら、総当たりで床をつついていく必要がある。
- このように扉自体を隠すのではなく、「扉は見えるけど開け方が簡単にはわからず頭を使う」とか、そのような隠し方の方が個人的には好みだ。
- あるいは、折角たくさんのスキルやレリックがあるのだから、使用するとアイテムや隠し扉の場所がわかるようなものがあってもよかったのでは。
★マップ周りの細かな不満
- マップに表示されている情報はもう少し多くてもよかった。例えば、あるエリアが未探索のとき、「今がんばって探索すれば探索済みにできる」のか、「必要なスキルがないから、現時点ではどうあがいても探索済みにできない」のかがマップからはわからない。
例えば、見つけた「肉腫」「封印の扉」「暗器の使用場所」くらいはマップに表示してもらえれば、「よし、肉腫を壊せるようになったから今まで周ったマップの肉腫があったところにいってみよう」などといった動きができたのだが、そのような情報はマップにないので、せっかく新しいアクションを覚えても、メモでもしていない限り記憶だけを頼りに膨大な数の未探索エリアをひとつひとつ探索し直すのは辛い。結果として攻略サイトに頼るか、「すべてのアクションを覚えてからまとめて探索しよう」という流れが起きやすくなってしまったのは残念。 - エリアの数が膨大な割に、レストポイント以外はエリアに名称がついていないので、何か通し番号のようなものでもあればよかった。これにより、各攻略サイトなどでそれぞれ異なる通し番号を独自に付すこととなってしまったし、「このエリアのここが雰囲気よかったよね」というような話を他のプレイヤーとしたくなったときに、エリアを特定するユニークな情報がないため共有が困難な点はやや残念。
総評
確かに「ソウル」シリーズに類似した要素をいくつか持つゲームであるのだが、本ゲームを「2D版ソウルシリーズ」などといった言葉で表現することは適切でない。それだけ、独自の魅力に溢れた名作である。高い難易度とユーザーの快適さを追及した設計とが絶妙にかみ合い、「難しいのに辛くない」ゲームに仕上がっている点は見事としか言いようがない。探索要素が強いゲームのため、周回向きかどうかは賛否がわかれるところであるが、商品自体の価格が安価な割に意外にもボリュームはそこそこあので、一周のプレイであっても十分な満足感を得られる。「天穂のサクナヒメ」と同様に奥深い2Dアクションゲームであり、「2Dアクションは前時代的」などという先入観にとらわれず、ぜひ1度は手に取ってプレイしてほしい。きっと後悔はしないはずだ。