タイトル(かな) | たそがれにねむるまち |
ハード | Switch,PS4,PC |
発売日 | 2021年4月14日 |
点数 | 55点(平凡・平均的) |
総評 | ・個人製作とは思えない美しい景観 ・アクション要素のテンポも〇 ・登場人物の描写をもう少し |
序文
このゲームは元々ノーマークであったのだが、Twitterでポロッと「個人で数年かけて製作しました」という制作者のツイートが流れてきたのをきっかけに興味が湧き、即日購入してしまった。個人で制作しているインディーゲームは数多くあるが、「Undertale」のようにアイデア勝負のものが多いイメージがある。しかし本作のトレーラーを見れば、かなりグラフィックに力を入れている作品ということが一目でわかる。ゲーム・コンセプトとしては「イラストレーター・3Dデザイナーであるnocras氏の描く世界を歩き回る」ことに主軸を置いているため、非常にシンプルな作りとなっている。
本レビューで、筆者が実際にプレイしてみた感想をしっかりと伝えていきたい。
なお、かなり雑だが簡易チャートを作成している。プレイしている方は参考にしてもらえたら嬉しい。
えっ、これ個人で作ったの!?驚きの映像美
トレーラーを観ていただければわかるのだが、本作は相当グラフィックが作り込まれている。このクオリティを個人で作ったというのは驚愕の一言。3つの街並みはどれも美しく、特にゲーム後半で飛行船が解禁されてから上空を眺めたときの美しさは目を見張るものがある。
後述するが、本作は基本的に街を探索して「大地の源」というアイテムを集めていくだけのゲームである。簡単なアクション要素こそあるが戦闘などは一切なく、ゲーム性は極めてシンプル。それゆえ、探索する街の作り込みや雰囲気そのものが本作のゲーム体験に直結しており、その責任は重いといえる。
この点、本作は見事にその責任を果たしている。どこか懐かしさを感じさせつつも幻想的で色鮮やかな街は歩いているだけで癒されるものがあり、また、大地の源の配置は過度にプレイヤーを迷わせることないよう考えられているので、収集を楽しみつつ街を堪能する、という制作側の意図がきっちりと達成できている。
もちろん純粋にグラフィックのクオリティだけでみれば、企業がガチで作りこんだものとは比べものにならないのだが、雰囲気の演出は負けていない。個人制作というバックグラウンド込みで楽しむゲームだろうという印象を持った。
ゲーム性について
前述の通り、本作は基本的に町中にある「大地の源」を回収していくだけのゲームだ。試練と呼ばれる簡易アクション要素やシューティング要素があるが、全体に占める割合はごく少ない。敵が出てくるわけでもなく、バトル要素もない。
このシンプルで幅の少ないゲーム性についてはかなり賛否が分かれるところで、あまりにもゲーム性がなさすぎるという意見もチラホラ聞こえるし、その考えもよくわかる。ただ、個人的には意外と(というと失礼だが)楽しめた。
大地の源の配置が絶妙にいい感じで、適当に街をウロウロして景色を楽しんでいるだけでサクサクと手に入るのでリストが埋まっていく感じが良い。街の作りも、入り組んではいるものの要所に目印となる建物やNPCなどがいるためか不思議と迷うことがなく、探索のイライラ感や疲れを感じることは少ない。(但し、後述の一部大地の源は除く)
また主人公のアクションにはわずかな遅延を感じるものの動かしていて気持ちよく、アクション「スイシン」「フユウ」を習得後はかなりスピード感があり快適。遠方にある大地の源をこれらのアクションで強引に取りにいけた時はなかなか達成感がある。
ただ一部の大地の源については非常に面倒で、その点は明確にマイナスであった。
- 町中に点在する灯篭20個をすべて点灯させる「優しい灯篭の明かり」はかなり問題。灯篭自体の場所は全くノーヒントな上に視覚的にも見つけづらく、しかも一度エリアチェンジをするとすべて消灯してしまうので一からやり直しという致命的な問題点を抱えている。せめてマップ上に表示させるなどの工夫が欲しい。依頼NPCが場所くらい教えてくれてもいいだろうに。
- 町中の絶景ポイント5箇所を調べるという「良き眺望」シリーズも同様の問題を抱えている。「優しい灯篭の明かり」とは異なり5箇所であること、高台を探していけば大体見つかることなどから上記よりはまだマシだが、それでも見つけづらい。
元々本作のコンセプト自体が「nocras氏が、自身が作った世界を冒険してもらう」ことに主軸を置いているアーティスティックな作品であり、氏曰く「企業なら速攻で却下されている作品」だそうなので、ゲーム性の少なさも含めて意図するところなのだろう。参考↓
https://www.famitsu.com/news/202104/15217831.html
その意味では、本作は制作者の狙い通りの作品であるといえる。
どうしても気になるいくつかの点
ところで、個人製作とはいえ、どうしても気になる点も散見された。
- 主人公ユクモにもう少し魅力が欲しい。プレイヤーの操作キャラである少女ユクモは、公式サイトの説明曰く「冒険好きでワイルド」らしいのだが、ボイスもセリフもなければリアクションもないためそのような描写がゲームプレイからは感じられない。たとえばジャンプ時とかにかけ声を発するとか、ネズ族との会話でリアクションをするとか、表情が変わるとか、そういうちょっとした工夫があればだいぶ違ったのだが。
- ユクモの着せ替え要素にバリエーションが欲しい。計6つある衣装はどれもシルエットが似ており、細部こそ異なるが色違い感が否めず、新鮮味に欠ける。また最も入手難度が高い衣装は黄金一色であり、黄色基調の景色が多い本作ではあまり映えない。
- 街にもう少し活気が欲しい。本作はゲームを進めるごとに少しずつ街に活気が戻り住民が増えるのだが、最大まで活気を取り戻しても住民は数名しかおらず、街の広さと比較して大きな違和感がある。
- クリア後の要素があまりにも少ない。大地の源をコンプしてもトロフィー以外に何もなく、真エンドのようなものも存在しない(と思われる)ため、クリア後に大地の源がコンプできるよ!→でもコンプしても何もないよ!という展開が非常に味気ない。
- 黄昏の聖域のシューティング要素の操作感が非常に悪い。飛行船自体の取り回しが悪いのはまだしも、飛翔花火の昇順がとても合わせづらい
- ほとんど役に立たない地図。現在地やステージの開始地点などが表記されていない。また、大地の源の入手地点はマーキングされているものの、「最終的に手に入る場所」にのみマークされているので、上述の灯篭クエストなど街のギミックを調べて入手する大地の源については全く役に立たない。
制作者の作った街を冒険してもらおう!というコンセプト故のシンプルなゲーム性は大いに結構なのだが、世界観とは景観だけでなく、そこに住む生き物たちが作り上げるものでもある。それらにもう少しケアしてあげるとより没入感が出たのではないかと思う。
総評
「採点は制作側の規模に関わらず絶対基準で行う」という当レビューブログのルール上、数字上の点数は高くないのだが、本作は強く筆者の記憶に残るゲームであった。個人制作者が魂を込めて作成したその熱量が、作り込まれた街並みからしっかりと伝わる力作である。ただし、制作者の「自分の作りたいものを作る」という想いが先行した結果、ユーザー目線で求めるゲーム体験との乖離が生じている印象はあった。氏にはぜひ今後もゲームを制作いただき、筆者がそれを遊びこんでレビューできれば幸せに思う。