タイトル(かな) | ごーすとおぶつしま でぃれくたーずかっと |
ハード | PS4,PS5 |
発売日 | 2021年08月20日 |
点数 | 91点 (傑作) |
総評 | ・文句なしの傑作 ・すべての要素が高水準 ・やりこみ派にもカジュアル派にも◎ |
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序文
Ghost of Tsushimaは、2020年7月に発売されたPS4用ゲームである。その前年である2019年には、フロム・ソフトウェアから同じ「和」テイストのゲームであるSEKIROが発売され大ヒットしたことからも、「似たようなゲームなのかな」と噂するユーザーも多く、また筆者もその一人であり、特段の情報収集はしておらず発売日を迎えた。
何となく未プレイのまま2021年を迎え、ディレクターズカット版の発売が8月に控えていることを知った。風の噂で高評価を得ていることは知っていたので、名作ならばやってみねばなるまいと満を持して購入した。
結果、なぜもっと早くプレイしなかったんだという強い後悔と、ディレクターズカット版&PS5で初見プレイをできたことによる幸福感が同時に襲ってくるという素晴らしいゲーム体験を感じることができた。あまり好きな言葉ではないが、いわゆる「神ゲー」であったともいえる。本レビューでは、本作についての筆者の感想・評価・評判を記していく。
他記事と同様、ネタバレ注意である。未プレイの方は十分にご注意いただきたい。
なお、特に強調したい点には、★マークを見出しに付している。
評価点
★美しい対馬の世界
本作はオープンワールド型のアクションアドベンチャーである。プレイヤーは武士である境井 仁(さかい じん)を操作し、襲来した蒙古の手から、対馬を奪還するために奔走することとなる。広大な対馬の世界を馬で駆け抜け、仲間を集めたり、民を救ったり、装備の強化素材を収集したりしながらゲームを進めていくことになる。
ゲーム内で描写される対馬の世界は言葉で表せないほど美しく色彩豊かで、敵により侵略をされている最中であることを忘れてしまうほどである。特にゲーム最序盤、馬でススキの中を駆けるシーンで「Ghost of Tshushima」のタイトルが流れる箇所は、この美しい対馬を守ろうとする仁の強い決意が表現されている非常に印象的な場面であった。
各地に群生するススキ以外にも、川、海、紅葉や銀杏、雪山など絶景には事欠かず、また重要地点へ案内をしてくれる狐や黄色の鳥などの動物の存在が、どこか神秘的なものを感じさせる。
何よりすばらしいのが、このような対馬の描写が、プレイヤーのゲームとしての没入感を高めているという点である。蒙古が出現しない状況で歩く対馬は平和そのものであり、穏やかな自然や愛くるしい動物たちの存在に溢れた理想郷のような場所である。グラフィックの美しく丁寧な描写と相まって、まるでプレイヤー自身が対馬の地に足を踏み入れているかのように錯覚し、プレイヤーは、ゲームプレイを通じて対馬という地に強い愛着を持つことになる。
それ故、その対馬の地を蹂躙・破壊する蒙古に対し、プレイヤーは対馬の民に近い目線で憤りを覚えることになる。この「目線の近さ」が、後述する仁と志村の対立について、プレイヤー自身により深い当事者意識をもたせることとなり、結果として物語への深い没入感を得ることができるのである。
ただ単に「グラフィックすごいなあ」で終わることなく、自然の描写にこのような付加価値をつけることができるとは…と強い衝撃を筆者は受けた。
★武士と冥人、2つの要素を合体させたアクション
本作の主人公 境井 仁は、元々は由緒正しき武士の家系であり、敬愛する伯父 志村の教えの下、誉れある武士として日々の鍛錬に明け暮れていた。しかし小茂田の浜での蒙古襲来を期に、「誉れは浜で死んだ」とし、徐々に手段を選ばぬ冥人(くろうど)の道を歩んでいく。
冥人(くろうど)としてのアクションは、誤解を恐れずにざっくり言うと忍者ゲームやステルスゲームのそれに近い。物陰に身を隠して不意打ち(闇討)、苦無を投擲したり、天井や壁の隙間から忍び込んだり、鉤縄で崖から崖に飛び移ったり、果ては毒の吹き矢を使ったり…と、何でもアリで蒙古を追い詰める。数で勝る蒙古を、発見されないようにひとり、またひとりと討ち取っていくアクションは、「天誅」シリーズのそれにかなり近く、また、もっと有名なところでは「メタルギア」シリーズにも通ずるものがある。
一方、武士として磨き上げた剣技も存分に発揮することができる。敵と対峙した際は、刀や弓を用いて、いわゆる「武士らしい」戦闘を楽しむことができる。受け流しで敵の攻撃を回避して強烈な反撃を加えたり、敵の使用武器に合わせて「型」を切り替えて防御を崩したりするアクションが可能だ。もちろん敵との対峙時も、苦無、火薬、煙玉など冥人としての多彩な攻撃も可能である(一部の戦闘を除く)。これら、「冥人」と「武士」ふたつの性格をもった仁というキャラクターの操作は、いわば忍者ゲームと侍ゲームのハイブリッド、いいところどりをしているかのような満足感を与えてくれる点がすばらしい。
★テーマ性の深いストーリー
また、ゲームへの没入感の肝であるストーリーについても、本作は非常に出来が良い。上述したように蒙古の討伐が主目的であるのだが、もうひとつ話の軸となるのが、誉れ高き武士から手段を選ばない冥人へと変わっていく仁と、伯父 志村との関係性の変化である。伯父が蒙古にさらわれた後、仁は伯父の救出のために奔走することとなるが、その過程で徐々に「武士」ではなく「冥人」としての戦い方が確立されていく。
- 敵の背後から不意打ちをしたり、闇に乗じて奇襲をする
- 敵の武器を利用する
- 毒を用いる
- 敵の隊長を惨殺するなど、「恐怖」を利用し敵の戦意を挫く
など、登場人物をして「まるで蒙古の戦い方だ」と言わしめるような手段を選ばない戦いっぷりを仁は披露する。
一方、誉れ高き武士である志村はというと、武士らしく正面からの正々堂々とした戦いを好むことから、敵の策略にはまり多数の犠牲を出すシーンなどもみられ、犠牲になった武士たちに対しても「誉れある死なら本望だろう」と完結してしまうため、一見「頭を使う柔軟な仁 vs 頭の堅い無能な志村」のような描かれ方をしているようにも見える。
この、「仁と志村、どちらの戦い方が正しいのか」という点は、本ゲームをプレイしたユーザーの間でも議論が交わされるなどかなり白熱するテーマとなった。
- 上述のような描写のされ方や、登場人物「ゆな」の志村をこき下ろす発言などから、一見すると志村が無能なようにも見える
- プレイヤー=仁であるので、プレイヤーサイドとしては仁側の視点に自然と立ってしまう
- 志村は人命そのものよりも誉れを大切にしているように見え、やや現代の価値観からは外れているようにも見える
- 他方、仁は仁で、蒙古を倒すための毒を逆に蒙古に利用され、多くの犠牲者を出している
- 仁は、守るべき民から「まるで蒙古のようだ」と怯えられるシーンがある
- 冥人の活躍により武士の求心力が低下することにより、秩序が乱れつつあるシーンもみられる
すなわち、「今、蒙古を倒す」「今、目の前の民を救う」には仁の採った方法が適しているのかもしれないが、「蒙古を倒した後の世」を考えた場合、志村の考え方も理に適っている。あとは世の中や個人の価値観の問題であり、正しい回答は存在しないのであろう。非常に考えさせられるテーマであった。
また、単純に「親子のように仲のよかった甥と伯父」が蒙古襲来を機に対立し、最後には互いを愛しつつも刃を交えなければならないというストーリーが物悲しく、心揺さぶられるものがあった。
テンポの良いシステム周り
本作、細かいシステム周りの動きが非常によく、極めて快適なプレイをすることができた。以下、一例を挙げていく。
- ファストトラベルは一部例外を除き「いつでも、どこでも」可能。馬もボタンひとつで呼び出せるため、移動のストレスはほぼないと言ってよい。
- 装備の強化素材が揃った段階で、システムメッセージで強化可能である旨通知がされる。これにより、いちいち強化の可否を確認するために拠点まで戻る必要がない。
- NPCとの同行時、こちらがダッシュするのに合わせ、先行するNPCもダッシュをしてくれる。例えば、「バイオハザードRe:3」などでは先行するNPCをこちらが追い抜くことができず、彼らの遅い足取りに合わせないといけない点などがストレスであったが、本作はそのようなことはない。また、「こちらが先行しているときにダッシュするとついてくる」ゲームは数多くあるが、「NPCが先行していて、こちらのダッシュに合わせダッシュして先行してくれる」ゲームはそれほど多くないため、かなり快適であった。
- 筆者のプレイ環境(PS5版)ではロード時間はほぼ無いといってよいほど快適であった。
- 戦闘時のテンポの良さもすばらしい。例えば、本作は体力の回復に「気力」を消費してワンボタンで回復が可能である。他の多くのアクションゲームに見られるような、体力回復のためにアイテム画面を開いて、使用して…といったわずらわしさがなく、たとえ敵の攻撃を被弾している最中であっても、ワンボタンで回復可能であるため非常にテンポがよい。これがアイテム使用であったら、「いや被弾中にアイテム使えるのおかしいでしょ」となるのだが、「気力」という精神的なものであるため、被弾中であっても回復できる点に一定の説得力を持たせている。
- さらに、戦闘における「一撃必殺」要素の多さもまたテンポの良さの要因のひとつである。すなわち、多数の蒙古を相手に真正面から戦う必要はなく、背後からの闇討ち、弓術によるヘッドスナイプ、毒殺、一騎打ち、冥人の型 といった一撃で敵を葬る要素が多く用意されているので、うまくプレイすれば、多勢の蒙古相手でも間延びすることなくサクサク進めることができ、また爽快感もある。
膨大なボリューム、やり込み要素の多さ
本作、ボリュームも非常に満足度が高い。メインストーリーを追いかけるだけでも30時間程度は要するし、すべてのサブシナリオ(傳承、浮世草など)をこなし、すべての蒙古の拠点を奪還し、対馬を隅々まで探索すると優に100時間は超えるほどボリュームがある。値段とのコスパでゲームを語ることはあまり好きではないが、それでも、抜群のコストパフォーマンスであるといえよう。また、各やり込み要素も、サブシナリオ、蒙古の拠点奪還のほか、稽古場での竹割り、温泉、和歌を詠むなど遊び心の多いものばかりで、探索そのものの楽しさと相まって退屈することなく遊び尽くすことができる。
問題点
率直な感想として、問題点といえるほどのものはなく、非常に完成度の高いゲームであると感じた。「強いて言えば」程度で、いくつか気になった点につき言及するに留めることとしたい。
やや間延びする一部の浮世草
サブクエストである一部の浮世草、特に「〇〇之譚」という名称の連続クエストが、やや冗長である。
- 特に長編である「石川之譚」「政子之譚」は、全9話と長大であるにも関わらず、その多くは「何か手掛かりっぽい物or人を見つけた」→「次の手がかりへ」を繰り返すだけであり、かなり間延びしている印象を受けた。
- ストーリーの内容も、「石川之譚」は弟子である巴を、「政子之譚」は一族の敵を探すといういわゆる人探しであり、同じような話をプレイさせられているように感じてしまった。
戦闘時の道具の切り替えが難しい
仁は冥人として様々な道具を駆使して蒙古と戦闘するのだが、道具の種類が多すぎて、戦闘時に直感的に切り替えることがやや難しいと感じた。
- PS5を例にすると、L2ボタンを押しなが十字キーの上下左右で「短弓、長弓、吹き針、投げ物」といったカテゴリを切り替えることができ、さらにそこから□〇×△ボタンで、各カテゴリごとの装備(短弓でいうと矢の種類、投げ物でいうと投げる物の種類)を切り替える必要がある。また、それとは別にR2ボタンを押しながら十字キーの上下左右でくない、とりもち玉、炎の剣などR1ボタンで発動するスキルの切り替えもあったりと、とにかく種類が多すぎて混乱する。
- とっさの切り替えが難しいので、結局汎用性の高い「短弓」「長弓」「くない」などをメインに使うことが多く、せっかくできることが多いのに、イマイチ活用しきれなかった感がある。
護符まわりの不満点
装備品のひとつ「護符」は、ユニークな効果が多く魅力的であるものの、いくつかの要素により、機能させるのにやや手間がかかる点がマイナスであった。
- 装備可能数が少ない。最大で「大きな護符の装備枠2つ&小さな護符の装備枠4つ」であり、護符そのものの種類と比較して一度に装備可能な数が少ない。
- 装備の切り替えが面倒。たとえば弓術をメインで使いたい場合は弓特化の護符の組み合わせ、非戦闘時はこれ、隠密時はこれ…とシーンによって最適な護符の組み合わせが異なるが、その度に上記6つの護符をつけかえるのがやや面倒であり、結局「まあこのままでいいか…」となるシーンが多かった。
護符については、いくつかの組み合わせを登録可能にして瞬時に切り替えたり、あるいは純粋に装備可能数をもう少し増やして付け替えの機会自体を減らすなど、付け替えをするストレスを緩和する工夫がほしかったところである。
追加シナリオ「壹岐之譚」
ディレクターズカット版の追加シナリオである壹岐之譚は、対馬とは異なる島「壹岐」にて、オオタカ率いる蒙古軍を討伐することを目的として行動することになる。
ストーリーの実態としては蒙古の討伐は仁の行動指針に過ぎず、描かれるのは仁の内面に深く迫り、トラウマと決別する物語であった。敵のボス、オオタカが一族に伝わる秘伝の霊薬を仁に飲ませ、かつて父を見殺しにしてしまった仁の心の傷をえぐり、苦しめていく。本編では描写し切れなかった仁の強さと弱さについて言及した、人間味あふれるストーリーだった。
この壹岐の譚、面白くはあったのだが、本編の完成度と比べるとさすがに少々物足りなさや違和感はあった。
まず「霊薬」というピンポイントに相手に過去の罪を思い出させて苦しめるという薬物の存在がご都合主義であるように感じてしまう。現実でも幻覚を見せる薬物などはあるためそこには目を瞑るとしても、「呪師」と呼ばれる経を唱えて敵に強烈なバフ効果を与える敵の存在はいささかファンタジーすぎ、急にプレイヤーが別のゲームに迷い込んでしまったような、不思議な感覚に襲われた。
ボリュームについては約10時間程度と、コンパクトながら追加コンテンツとしてはおおむね満足感があったが、仁の過去に焦点をあてた結果、境井家を憎む壱岐の民との和解があっさりしていたり、主要キャラの一人であるふかの深堀りが浅かったりなど全体的に「まあこんなものかな」感のある追加コンテンツで、十分に面白いものの、欲をいえばもう一声ほしい、というのが正直な意見であった。
総評
本作は紛れもない傑作であり、現在世に出ているオープンワールド型アドベンチャーの中で屈指の出来であることは間違いない。また、筆者がこれまでプレイしてきた数多くのゲームの中でも、最上位のカテゴリに位置するゲームである。プレイする時間のある諸兄は、とにかく一度手にとってプレイしてみてほしい。後悔はしないはずである。