タイトル(かな) | だんがんろんぱ きぼうのがくえんとぜつぼうのこうこうせい |
ハード | PSP,PC,switch |
発売日 | 2010年11月25日 |
点数 | 76点(良作) |
総評 | ・キャラ、世界観、シナリオでプレイヤーの心を弄ぶ怪作 ・整合性や細かい箇所の説明はあえてぶん投げているゲーム設計 |
序文
ダンガンロンパは、2010年にスパイク・チュンソフトより発売された「ハイスピード推理アクション」ゲームである。発売当時の既存ゲームに当てはめるならば、カプコンの「逆転裁判」シリーズにやや近いものがあり、いわゆる証拠を集めて裁判(実際の裁判ではないが)で提示し、真相を追求するタイプのゲームだ。シリーズ初代からかなりの人気を博しており、PC版なども存在していたが、この度ナンバリングタイトル全作とおまけゲームが同梱されたSwitch版「ダンガンロンパ トリロジーパック」が発売されたことにより、筆者も手に取ることとなった。
本レビューは、シリーズ初代にあたる「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」のレビューであり、筆者のプレイ環境はSwitch版である。既に発売から10年以上経っても現代のゲームに勝るとも劣らない本作の魅力を、たっぷりと伝えていこうと思う。
なお本作はゲーム本編のみをその評価対象としており、クリア後の追加要素である「スクールモード」はその評価対象としていない。
また、ゲームの性質上ネタバレが致命的であるので、未プレイの方は十分ご注意いただきたい。核心的なネタバレをしないよう気を付けて執筆しているが、序盤およびゲームの世界観に関わるネタバレは一部含まれているのでご留意いただきたい。
例によって、特に強調したい要素には★マークを付している。
良い点
★キャッチーで惹き込まれるゲーム設計
本作のシナリオ概要は、超名門校である希望ヶ峰学園の新入生15名が、入学と同時に学園内に閉じ込められ、閉鎖空間の中でコロシアイと学級裁判を強要させられるというものである。学級裁判は生徒が生徒を殺した場合にのみ開催され、殺した犯人(クロ)を裁判による投票で決定。正しいクロを選べばクロが処刑され、誤ったクロを選んでしまった場合は本当のクロ以外の全員が処刑され、逃れた本当のクロは学園内から脱出することができる。
カテゴリに当てはめてしまえば、学園ものとデスゲーム&サバイバルの同居であるに過ぎないのだが、後述する独特の世界観と「論破バトル」という独自のゲームシステムが本作を名作たらしめている。
また、わかりやすい個性で色付けされた魅力的な登場人物たち。彼らが容赦なく追い詰められていく過程は残酷ながらも目が離せないものがある。
★斬新なゲームジャンル「ハイスピード推理アクション」
本作のゲーム内容は大きく2つのパートに分かれており、便宜上、「アドベンチャーパート」と「学級裁判パート」と呼称することとする。
アドベンチャーパートでは、シナリオを読み進めていくことでゲームが進行する。自由行動ではお気に入りのキャラクターと親睦を深めることが可能で、また、事件が起きた際に、学級裁判に向けて捜査を行うのもこのパートである。これらについては一般的なアドベンチャーゲームと大きく変わるところはなく、個性ある登場人物の会話を見ながら違和感なく進められるだろう。
学級裁判パートは、その名の通り学級裁判をするパートである。本作のジャンルが「ハイスピード推理アクション」たる所以はこの学級裁判パートからなる。
この学級裁判パートが、とにかく良くできているのだ。
学級裁判は大きく分けて4つのパートから構成され、そのどれもがプレイヤーを飽きさせないための工夫が随所に見られる。
①ノンストップ議論
学級裁判の主パートであるノンストップ議論では、登場人物たちが事件に関連する議論を繰り広げる。議論は実際の会話さながら(プレイヤーの決定ボタンによるスクロールを経ることなく)ノンストップで行われ、プレイヤーは、その議論に含まれる矛盾点を探し出し、会話に乗り遅れることなく矛盾点を証拠(弾丸)で撃ち抜くことで物語が進行していく。
これは、「逆転裁判」シリーズにおける「異議あり!」に近いものである。しかし「逆裁」シリーズが「弁護士」vs「検事」という、登場人物の役割が明確に定められているシンプルな構成であるのに対し、本ゲームのノンストップ議論は、誰が「クロ」かがわからない状況下で、個性豊かな登場人物たちが繰り広げる議論を楽しみながらプレイすることができる点が大きな特徴だ。「逆裁」の二番煎じという言葉を当てはめるには適切でない、十分なオリジナリティのあるゲーム性であるといえる。
②閃きアナグラム
流れてくる文字を次々と打ち抜き、進行のカギとなるキーワードを完成させる。特段ゲーム性があるわけではないので比較的印象も薄いのだが、主人公が頭の中で「閃く」過程を描写するものである。
③マシンガントークバトル
これが非常に特徴的で、登場人物(≠犯人)が追い詰められたりヒートアップしたときに、こちらの意見にまったく聞く耳を持たなくなり、マシンガントークでまくし立ててくる。このような議論不能になった登場人物に対して、こちらもマシンガントークで応酬するというものだ。
ゲーム性としてはタイミングに合わせてボタンを押すリズムゲーに過ぎず、それ自体が面白いわけではないのだが、筆者はこのマシンガントークバトルが大好きである。
というのも、マシンガントークバトルの背景である「登場人物がヒートアップし聞く耳を持たなくなる」という設定。これが非常にリアルで、説明を聞いたとき「わかるわかる!!」と感心したものだ。
そもそもコロシアイを強要させられるような状況下で、冷静に議論をするなどというのが普通は無理な話で、まして本作の登場人物は「超高校級」とはいえ高校生である。このマシンガントークバトルの存在により、よりリアルな人間の心情描写や追い詰められていく過程がよく表現されており、本作になくてはならない要素であるといえよう。
④クライマックス推理
これもまたかなりオリジナリティのある要素で、学級裁判のクライマックスにおいて、プレイヤー自らの手で事件の要素を組み合わせて「漫画」を完成させるというものだ。学級裁判パートはかなり長いため、プレイヤー自身に事件のまとめとおさらいをさせ、プレイヤーの理解に資するという役割をもっている。
以上、学級裁判パートは、単純なゲームとしての面白さと、「仲間の中からクロを見つけ出し処刑しなければならない」という緊張感の共存。この2つが相互に作用することで、プレイヤーの心をグッと深くゲームに入り込ませ、ボタンを押す手が止まらない、まさに「ノンストッププレイ」のような状態になってしまうのだ。
★ポップなデザインとシビアな世界観が同居した「サイコポップ」
本作、ジャンルとしては前述の通り「ハイスピード推理アクション」なのだが、世界観は「サイコポップ」という位置づけらしく、これが言い得て妙な表現である。
キャラの見た目は可愛いし、声優はノリノリだし、(何なら敵役であるモノクマは旧ドラ〇もんの声だし)、全体的に軽いノリで進んでいくのだが…。
容赦なく人は死ぬし、グラフィックはグロくないけど演出がグロいし、学生たちを精神的に追い詰めていく残酷な描写もかなり見られる。このアップダウンがプレイヤーの心をガンガン揺さぶってきて、「ゆるいゲームかと思った?残念でした!!」と開発の掌で踊らされ、翻弄されながらプレイすることに一種の快感すら覚えてしまう。
特筆すべきは、犯行がバレた「クロ」に敵役であるモノクマが執行する「おしおき」シーンの残酷さである。ポップな絵柄で誤魔化されてはいるが描写自体は残酷極まりなく、これがもし実写の映画だったら間違いなくトラウマ確定、というような「おしおき」が多数見られる。
しかしプレイを進めるにつれ、気づけば「おしおき」シーンを楽しみにしている自分がおり、「ああ人間って本質的には残酷なんだな、いや人間なんて言葉で主語を大きくしちゃダメだ、僕ってなんて残酷なやつなんだ」とゲームを楽しみながら自己嫌悪に陥るという不思議な感覚に襲われてしまった。
見てはいけないものがあるとき、手で目を覆いながらも指のすき間からつい見ちゃうアレ。アレこそがダンガンロンパであり、なんというか、先にも述べたがプレイヤーの心を揺さぶるのが本当に上手なゲームなのだ。それがこのゲームの面白さである。
★本当に、本当に魅力的なキャラクターたち
また本作の面白さを支えている魅力的なキャラクターたちにも触れねばなるまい。
本作の登場人物は「超高校級」の高校生たちであり、それぞれ超高校級の能力を兼ね備えた逸材ばかりである。それゆえ個性も非常に豊かであり、どいつもこいつも本当に魅力的なのだ。
このレビューを読んだ後に本ゲームをプレイされる予定の方がもしいるならば、ぜひ序盤で登場人物の顛末を予想してみてほしい。誰がクロなのか。誰が終盤まで生き残るのか。どのキャラがどんな立ち位置なのか。
きっと、まったくわからないであろう。全員「こいつは重要人物だから死なないでしょう」と思えるし、一方で、疑いの目で見れば全員怪しくも見えてくる。「え、この中から死ぬ人いるの?こんなにいいキャラたちなのに?掘り下げもまだまだできそうなのに?」という気持ちのままゲームが進めていくが、退場するときはあっさり退場する。そして残った人物の中からクロを探し、クロは処刑されるので、また登場人物が一人減る。裁判が終わった後に残るのは虚無感と無力感だけだ。それだけ魅力的なキャラクターたちばかりなのだ。
つまり、ただ人が物語から退場するだけならば単なるデスゲームであるが、キャラ自体を「立たせる」ことで、「退場」の意味が非常に重くなり、ものすごい喪失感をプレイヤーに抱かせることになるのだ。
先が気になるシナリオ
本作、「コロシアイ学園生活を生き延びる」という目の前の課題のほか、「モノクマを倒し、コロシアイ学園生活から脱出する」という真の目的が登場人物に課されている。ゲームの進行と共にその真の目的にも向かって進んでいくため、単にオムニバス形式で単発の学級裁判を乗り切る単調なゲームシナリオではなく、常に先が気になるストーリー設計をしている。飽きさせることなくゲームクリアまで進んでいくことができる点は、非常に好感が持てる。
以上が、筆者の考える本作の素晴らしいポイントである。
一方、シリーズ一作目ゆえか、主にシナリオ面で粗が見えるポイントも多い。続いて、本作の問題点についても見ていこう。
問題点
★登場人物の不自然な行動
本作、登場人物のいくつかの行動や言動において、「いやその判断はおかしい」というツッコミどころが随所にみられる。
苗木誠(以下「誠」とする)について
誠は、主人公であり、本作の「探偵役」であり、プレイヤーにとっての操作キャラでもある。プレイヤーは誠の視点で本作をプレイしていくのだが、誠のいくつかの行動には、物語の登場人物としては不自然な行動が散見され、かなり違和感を覚えた。
誠以外の登場人物(生徒)について
また、誠以外の登場人物についても、プレイヤー目線では違和感のある行動・言動が散見された。
物語終盤の展開と黒幕について
モノクマ&黒幕について
その他細かな不満点
- プレゼント用の「ガチャ」の演出が長く、連続してガチャをする際かなり時間がかかる
- 調査の際、各調査ポイント間の距離が近く、お目当てのポイントを調べようとしても別の箇所を調べてしまったり、キャラクターに話しかけてしまうことがかなり見られた。
総評
ディティールはさておき声高に言いたいのは、「未プレイの人は触れておいた方がいいシリーズ」ということだ。こういったシリーズの第一作目は時の経過による技術の進歩と共にどうしてもおススメし辛くなってくるのだが、本作は令和のゲームと比べても全く遜色なく楽しめる。Switchをお持ちのユーザーは、本作を含めたゲーム4本分が同封されている「ダンガンロンパ トリロジーパック」をぜひ購入しプレイしてみてほしい。
カワイさと残酷さが同居した独特な世界観、魅力的なキャラクター、心を揺さぶるシナリオ。シリーズの導入として文句なしの一作であり、「2」をプレイするのが今から楽しみだ。