タイトル(かな) | どらえもんのびたのぼくじょうものがたりだいしぜんのおうこくとみんなのいえ |
ハード | PS5,switch,PC |
発売日 | 2022年11月2日 |
点数 | 90点(傑作) |
総評 | ・「コレがしたいんだよ!」の期待に応えてくれている ・非常に良いテンポ感 ・秀逸なシナリオ、キャラクター |
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序文
正直なところ近々の「スローライフ」系ゲーム全般にあまり良い印象がなく、スローライフとは何かを考えさせられる作品が多かった。牧場物語シリーズでは、「オリーブタウンと希望の大地」はクリアを断念させられるほどストレスのたまる作品だったし、アニメ題材というカテゴリでは、クレヨンしんちゃんの「オラ夏」が記憶に新しいが、ゲーム性・シナリオ面共に薄い「虚無ゲー」の印象が強かった。
そんなわけで、筆者は本作の購入にあたってはかなり慎重に検討を重ね、最終的には怖いもの見たさのつもりで購入を決定したわけだが、まさかまさかの非常に良いゲームであった。
これほど良い意味で期待を裏切られたゲームは、2022年では他にあるまい。
本レビューでは、そんな「ドラえもん のび太の牧場物語 大自然の王国とみんなの家」の感想を、忖度なしに伝えていこうと思う。
良い点
体験版で切った方、ちょっと待ってください
まず製品版の内容に入る前に、体験版について言及したい。
本作は各ハードにて体験版が配信されている。体験版では、メインシナリオ導入部分のダイジェストおよびゲームプレイの一部を体験できる。
しかしながら、この体験版のつくりがやや微妙で、製品版であればだいぶ後半で解放される要素も含めて実装されているため、本来であれば丁寧なチュートリアルを経て徐々に理解していくゲームシステムを、一度に「さあどうぞ」と与えられる構成になっているため、ゲームシステムを理解することに手いっぱいとなり、ゲームそれ自体の魅力・楽しさを体験版ユーザーが実感しにくくなっていると感じた。
体験版では、紙芝居的なストーリー導入の後に自由行動パートとなるのだが、とにかくできることが多い。短い日数で畑の耕し~収穫まで体験させたいからか、製品版でだいぶ後半に手に入るひみつ道具「アットグングン」で強制的に作物を成長させたりできるし、「ケロンパス」で体力を減らなくさせたりできるのだが、色々詰め込みすぎて逆に混乱を招きそうで、ゲームの楽しさをシンプルに味わうという体験版に求められた役割を全うできていないと感じた。
製品版のチュートリアルは非常に丁寧かつ段階を踏んでおり素晴らしい出来栄えなので、正直なところ、体験版も他の多くのゲームで見られるように製品版の序盤をそのままプレイさせ、製品版にデータを引き継げるような形にした方が良かったと感じた。
つまり皆さんにお伝えしたいことは、体験版は本作の魅力を十分に引き出せていないので、体験版が合わないと感じた方も、ぜひ購入を検討して欲しいということだ。
本レビューで、少しでもその意思決定のお役に立てればと考えている。
ストレスフリー・心ゆくまで楽しめる「スローライフ」
本作のすばらしい点は、プレイヤーが牧場物語に求められているゲーム性を理解し、非常に高いレベルで応えている点であろう。
- 抜群のテンポ感。ゲーム開始後のロード時間はほぼゼロ。操作遅延もなし。
- 移動面の煩雑さはひみつ道具「人間機関車」「どこでもドア」等でカバー。
- 施設の位置関係も非常に考えられている。一例を挙げれば、牧場との親和性の高い「動物屋」「雑貨屋」は隣接エリアにあり、体力の回復を行える「レストラン」は体力を消費しやすい鉱山側にある。
そもそもこういった牧場系ゲームにおける「スローライフ」というのは、登場人物がスローライフ感を出しているだけで、プレイヤー自身は限られた時間の中で最大限の成果を生み出す効率プレイになりがちで、慌ただしく動いていることが多い。ゲームプレイの大半は「移動」のため、移動におけるストレスがゲームプレイの満足度に直結しがちであることから、それを極限まで排除した本作は非常に没入度の高いゲーム体験をもたらしてくれる。
(余談であるが、同シリーズの「オリーブタウンと希望の大地」のロード時間の長さたるや…同作に比べれば、本作がいかに『考えられた』ゲームであることが良くわかる)
シンプルながら先が気になるシナリオ
筆者は牧場物語シリーズを皆勤プレイしているわけではないのだが、同シリーズの主たるゲーム体験はあくまで「牧場シミュレーション」であり、そのバックにあるシナリオはオマケ程度に過ぎないというイメージが強かった。しかし、本作はシナリオがとてもしっかりと作り込まれており、のび太たちが牧場運営をすることになった経緯であるライト少年の夢の手伝いや、そこから展開して最終的に大きな危機に一丸となって立ち向かうという一連の物語が舞台装置として機能し、プレイヤーをゲームの世界に引き込んでくれる。
シナリオ自体はシンプルながら先が気になる作りになっているし、牧場シミュレーションパートとシナリオの親和性も抜群。舞台となるイリマ星の住人たちとのコミュニケーションをとりながら牧場を運営し、ひみつ道具が解放され、また牧場を大きくし…と、牧場シミュレーションとシナリオ双方からプレイヤーを楽しませてくれ、退屈しない点が素晴らしい。
また、メインシナリオのみならずキャラクター毎に用意されているサブシナリオもとても面白く、先が気になるものばかりだ。
- 母親が入院中の家族の話
- 犬猿の仲の大工とデザイナーの話
- 誰からも愛されるおばあちゃんの話
- 互いを思いやる姉と妹の話
- 味は良いのに閑古鳥の鳴くレストランの話
いずれのサブシナリオも住人の問題にのび太や仲間たちが首を突っ込み解決のお手伝いをするというものなのだが、非常に良く出来ているのが、これらの問題を解決するのはあくまで当人たちであり、ドラえもんのひみつ道具は当人たちの解決を少しだけ後押しするに過ぎない構成となっている点だ。
ドラえもんがひみつ道具で一発解決しハイおしまい、というわけでは決してなく、基本的には彼ら自身の物語であり、またその悩みも、現実に生きる我々が「わかるわかる」と共感したくなるようなものばかりなので、のび太を通じてまるで自分がその問題を乗り越えているかのような感覚に包まれる。また解決に至るまでの道筋も意外とシビアで、子供向けアニメだったらここで解決だな…と思うような展開の後にもう一波乱あったりなど、「コトはそう簡単じゃない」というある種のリアルさが描写されている点もポイントが高かった。
魅力的なイリマ星の住人と、地球人の面々
前述のサブシナリオの評価からも窺える通り、イリマ星の住人たちはとても魅力に溢れている。彼らは異邦人であるのび太たちをとても温かく迎えてくれるし、好感のもてる人物ばかりなので、作業としては単調な毎日のコミュニケーション(好感度上げ)もあまり苦にならない。(さすがに飽きてくるのは否定できないが)
さらに、地球人の仲間たち(ドラえもん、ジャイアン、スネ夫、しずか)も、この手のゲームにありがちなキャラ崩壊を起こすことなく、良い塩梅に描写されている。
- ジャイアン、スネ夫は「映画版」によくある過度な聖人っぷりではなく、原作を踏襲した意地悪な面を見せつつも、要所要所ではきっちりと思いやりのあるところを見せてくれる
- ドラえもん、しずかは、それぞれのび太やジャイアン、スネ夫が不適切な言動をした際に諫めるバランサーとしての役割をきっちりとこなしており、これも原作イメージに近いものである。
- のび太は、強いて言えば牧場運営頑張りすぎ(概ねプレイヤーのせいなのだが)であるためやや違和感があるのだが、ところどころイベントで牧場運営をサボろうとしたり、「ひるね」コマンドで体力を回復させたりなどきちんとのび太らしさを出せているので、これもしっかりできている
総じて、キャラクターについても非常に満足度が高く、本作の面白さを支えてくれている。
オーソドックスながら独自要素もある牧場パート
さて、本作の主役である牧場シミュレーションパートは、非常にオーソドックスな「牧場物語」であるといえよう。
序盤はすべて手作業で、クワで耕し、種を撒き、水と肥料をやり、収穫する。また、家畜にエサをやり、放牧し、夜には舎内へ入れる。序盤は道具の性能も悪く、消費スタミナと収穫物とのバランスがとれていないため、畑作業での金策効率はあまり良くない。
というか、普通にプレイしているとシナリオクリア間近くらいまでは畑での金策より釣りの方が安定かつ高収入だったりするので、もう少し畑での金策効率を上げても良かったのかなという印象は受けた。
もちろん順調に設備投資し、自動化を進めまくればこの限りではないのだが、標準的な初見プレイでは釣りの方がお手軽金策となるだろう。畑作業と異なり体力消費がない点も◎。
また、仲間に話しかけることでその仲間を連れ歩いて自由行動することができ、仲間はのび太の行動に合わせ自動で行動し、畑仕事や鉱石堀り、釣りなどのサポートをしてくれる。ほか、ひみつ道具で作物の成長速度を上げたり、雲の上に畑を作ったり、テキオー灯で深海で真珠を育てたりなど割とやりたい放題に「ドラえもん」ならではの独自要素があり、出来ることの幅が非常に広い。
通常プレイではシナリオクリアまでに40-50時間程度はみた方が良いと思われるので、ボリューム感も十分だろう。
悪い点
さて、筆者ベタ褒めの非常に完成度の高い本作であるが、改善要望の意味合いも込めて、一部気になる点があったことも述べておきたい。
お願いのキャンセルについて
登場人物から特定のアイテムの納品を求められるミニクエスト「お願い」が、意図せずキャンセルとなってしまう。一度受注した「お願い」は、依頼者に直接話しかけることでキャンセルができるのだが、「お願いを続ける」「お願いをやめる」の選択画面で、会話自体をキャンセルしたつもりでキャンセルボタンを押すと、「お願いをやめる」を選択したことになってしまい、自動的にキャンセルされる。そして一度キャンセルした「お願い」の再受注はできない。ここの操作感は感覚的ではなく、慣れるまでは何度か誤ってキャンセルしてしまう可能性がある。
仲間のお手伝い関係
前述の通り、自由行動時に仲間に話しかけることで作業の手伝いを頼めるのだが、良いシステムではあるのだが微妙に使いづらい。
- 釣りを手伝ってもらうと、プレイヤーが魚のヒット待ちを垂らしている最中であっても、仲間の「〇〇を釣った!」というカットが割り込んで流れるのでテンポが悪い。また、1匹釣る度に釣りをやめてしまうので、のび太が釣りを続けている間は自動で次の魚を釣る仕様の方が望ましい。
- 採掘を手伝ってもらうと、チャージ掘りをしないため灰色や黒色の鉱床に対する効果が薄く、非効率的な掘り方をしてしまう。また、掘る箇所がプレイヤーと被りやすい。
- 馬小屋にて馬に一緒に乗る際、仲間キャラがオブジェクトに引っかかってしまいなかなか乗らないことがある。
- そもそも仲間のスタミナの減り具合が可視化されないので分かりにくい。
釣り関係
撒き餌の効果がわかりづらい。効果時間の可視化や、効果中であることを示すエフェクトなどが一切ないため、使いなおしのタイミングがわからない。
挨拶・コミュニケーション関係
本作はのび太と登場人物との間に好感度が設けられており、1日1回の挨拶(会話)とプレゼントを渡すことにより好感度が上がっていく。好感度を上げることで、その登場人物が関係する各シナリオが進行するほか、一部のひみつ道具の解放条件にも関わっているため、好感度上げは重要である。
したがって、プレイヤーは好感度を上げるために、毎日全住人に挨拶&プレゼントを渡すことを日課とするわけだが、その日に挨拶&プレゼントを済ませた人物が一見してわからず、実際に話しかけるまで判別できないため、うっかり既に話しかけた住人の元へ再度話しかけに行き、時間を無駄にしてしまうという事象が頻発する。マップ画面などで、既に会話済みかどうかを一覧表示できればより便利になると感じた。
シナリオ進行により生じる矛盾
ある程度は仕方ないのだが、一部明確な矛盾や不整合があったため、気づいたものを記載していく。以下、ネタバレ注意。
上記2点は特に個人的に気になった箇所で、サブイベントの進行度によって仕方なく発生するという類のものでもないので、やや違和感を感じた。(とはいえ、ゲーム評価そのものに大きな影響を及ぼすほどのものではないが)
総評
正直本作についてはほぼノーマークで、あまり期待せずに購入したものの、いざプレイしてみれば製作陣の愛とプロ意識をもって作られたことがクオリティからわかる素晴らしいゲームであった。「エルデンリング」「ゼノブレイド3」「スプラトゥーン3」といった傑作ゲームが発売された激戦区の2022年の中で、それらに迫るほど面白かった作品であり、前述の通り体験版で「切った」人にもぜひ購入を検討してほしいと思っている。